暗号資産ウォレットのシークレットリカバリーフレーズの保管リスク【あなたは大丈夫?】

仮想通貨やNFTを普段から触っているみなさんは、暗号資産ウォレットのシークレットリカバリーフレーズをどのように保管していますか?

第一に、PCやスマホ、クラウド上に暗号資産ウォレットのシークレットリカバリーフレーズを保存するのは絶対止めましょう!
フィッシングサイトなどを通じてPCやスマホがマルウェア(ウィルス)に感染した場合、情報が全部筒抜けになってしまうからです。
参考記事:日本も標的に 200億円相当の仮想通貨を盗み出したハッカー集団CryptoCoreの手口

マルウェアはオンラインでのリスクですが、リアル世界でもどんなリスクがあるか考えたことはあるでしょうか?
結論から言うと、『リアル世界も、マルウェアリスク以上に危険が多い』です。
火災以外で考えられるリスクは2つあります。

  1. 現実世界で物理的に盗まれるリスク
  2. 捜査機関に押収されるリスク

紙に書いて、自宅の金庫に保管する
これが正解のように語られていますが、現実世界のリスクを考えるととても危険です。
みなさんはそのリスクを本当に正しく認識しているでしょうか。

「治安が良い日本に住んでいる自分には関係がない」と思われているかもしれませんが、案外そうでもないのです。
順を追って説明します!

※この記事は過去のかねりんメルマガ、Voicyを元に内容を再編集したものです。

リスク1:現実世界で物理的に盗まれるリスク

言うまでもないですが、シークレットリカバリーフレーズをメモした紙が盗まれたら終わりです。
シークレットリカバリーフレーズが漏洩した暗号資産ウォレットは、金庫の扉が開けっぱなしの状態でお金を置いているようなものです。

特に危険度が高いのは有名人やインフルエンサー、経営者です。
ネットやSNSで仮想通貨やNFTでたくさんの収益を上げていることを公言している人で、実名や自宅の住所がバレている人はとても危険です。
狙い撃ちで空き巣や強盗に入られるリスクが非常に高い。
最近にありましたよね、そういう事件。
参考:【独自】杉並区のマンションで「4億円」の高額窃盗事件 被害男性が暗号資産のトラブルを告白 警視庁が捜査

会社経営者(代表取締役)の場合も、法人登記する際に会社の住所が載るのでリスクがあります。
そんな場所にシークレットリカバリーフレーズを保管するのは、どうぞ盗んで下さいと言っているようなものです。

しかし、今回のお話は一般人でも当てはまります。
空き巣に入られて資産を盗まれることは決して珍しいことではありません。
正月に帰省して留守にしている間に玄関のドアをこじ開けられて、現金や貴金属を盗まれた同僚が身近にいます。
また、最近では車で連れ去って監禁・暴行し、暗号資産取引所の口座のパスワードを聞き出して資産を強奪するという事件も発生しました。
参考:32歳男性を24日間監禁、暗号資産1億円以上を強奪か…「うそついたら家族殺す」

クレジットカードの不正使用と違い、シークレットリカバリーフレーズを盗まれてたり、無理やり聞き出されて暗号資産を奪われたとしても、仕組み上誰も取り戻せないし、誰も補償してくれません。

日本は安全な国?警察白書からみる実態

日本は外国と比べると犯罪が少なくて安全なイメージかもしれませんが、実態はどうなんでしょうか?

警察庁が公表している令和4年版警察白書を見ると、日本では年間 568,104件の犯罪が発生しています。
一方で交通事故発生件数は年間305,196件です。
なんと、犯罪に遭遇する確率は、交通事故に遭う確率の2倍です。
この数字を見て、「自分には関係ない」と言えますか?

次に窃盗罪と強盗罪の件数を見てみます。

侵入窃盗事件の認知件数(2021年は37,240件)

強盗事件の認知件数の推移(2021年は1,138件)

ご覧のように、かなり多くの件数が発生していることがわかります。
発生件数自体は年々減少傾向にありますが、それでも毎日100件ほど被害が発生しています。

これだけ発生していれば、そのうち
「シークレットリカバリーフレーズを書いた紙が盗まれた!」
という被害者が出てくるのも、時間の問題でしょう。

今はまだ暗号資産のリテラシーがある人は超少数派なので、もしシークレットリカバリーフレーズを盗まれたとしてもワンチャン気付かれずに済むかも知れません。
しかし、全体的に暗号資産リテラシーの底上げされてきたら、当然ウォレットのシークレットリカバリーフレーズを盗んで暗号資産を抜こうとする輩が増えてきます。

金属板にシークレットリカバリーフレーズを保存するのは有効なのか?

「紙だと燃えちゃうから金属板に保存する」というコンセプトの商品なんかも販売されていますね。
こんな商品です👇

火災・腐食耐性は当然紙よりも高いですが、こんな物は
「シークレットリカバリーフレーズですよ!」と言っているようなもの。
「盗まれるリスク」で言えば、紙よりリスクが高くなると考えています。

紙であれ金属であれ、「明らかにシークレットリカバリーフレーズだとわかる状態」で保管しておくことはオススメしません。
せめてノートの一部に紛れ込ませる等して、パッと見でそれとわからないようにしておく工夫が必要でしょう。

リスク2:捜査機関に押収されるリスク

犯罪を取り締まる側の警察や検察は、人の家に強制的に立ち入る権限を持っています。
自分が罪を犯さなくても、犯罪の現場になったり、事件の関係者になってしまったときには自宅を強制捜査される可能性があります。
そうすると、金庫の中まで見られます。
金庫の鍵は当然破壊されます。

直接犯罪と関係なくても、自身が被疑者等の立場であれば、財産状況を明らかにするための”身上調査”を行うことが法で定められているため、財産状況を強制的に捜査されます。

注意して欲しいのは、暗号資産関係の犯罪をしたわけでなくても、シークレットリカバリーフレーズを押収される可能性があることです。
どういう場合があるのでしょうか?

例えば・・・

  • 酒に酔って店先の看板を蹴って壊して器物損壊で逮捕
  • 痴漢の冤罪で逮捕
  • 交通事故で歩行者を跳ねてしまって逮捕

など、こういったことは誰の身にも起こり得ますよね。
なので、この話題はぜひ他人事だと思わずに読んでください。

逮捕されたら「犯人(あなた)の生活実態・財産状況を明らかにするための資料」として、銀行の預金残高を照会するのと同じ目的で、シークレットリカバリーフレーズを押収されます。
どういうことか?

警察などの捜査機関は銀行に対して捜査関係事項照会をして預金口座の残高を調べることができますが、暗号資産取引所以外のメタマスク等の暗号資産ウォレットでは、銀行口座のように「名義」の概念がないです。
捜査機関が「あなたがどのウォレットを持っていて、いくら暗号資産を持っているか」を明らかにするためには、「あなたが該当する暗号資産ウォレットのシークレットリカバリーフレーズを持っているかどうか」により判断されることになるでしょう。

過渡期だからこそ、捜査機関もよくわからないままに押収して、シークレットリカバリーフレーズをコピーしたり写真撮影して証拠化してしまうことがあり得るということです。
これは現実的な危険ですので、個々がしっかり備えて防御しなければ泣きを見るのは自分です。

比較としてイメージしやすいのが、マイナンバーです。
マイナンバーは、警察・行政機関・企業等であっても、法律で許可されている場合以外はコピーしたり控えてはいけないこととなっています。
参考:警察庁通達行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う運用上の留意事項等について

裁判に用いる司法書類では、うっかり撮影してしまった場合は黒塗りされてから書証として法廷に出て行くことになります。
しかし、黒塗りされる前段階では当然色んな人の目に触れます。

「マイナンバーをコピーしてはいけない」と同様に
「シークレットリカバリーフレーズをコピーしてはいけない」
というルールができたとしても、信用しない方が良いでしょう。

現場の捜査員や職員が、よくわからないままにコピーしてしまった。
あとから上司に指摘されて慌てて削除した。
なんてコトは警察や役所でも十分起こり得ることです。

マイナンバー程度であれば、漏れたところで実害はないのですが、シークレットリカバリーフレーズはそうはいかないですよね。
うっかり漏れたら、そのウォレットは終わりです。

少し知識のある人だったら、シークレットリカバリーフレーズで勝手にウォレット復元して暗号資産を抜いてしまう可能性もあるでしょう。

何でもアリ?の職務質問にも注意

あと危険なのは、シークレットリカバリーフレーズを身につけて外を出歩く行為です。

ひったくりに遭うリスクもありますが、警察から職務質問(職質)を受けるリスクがあります。
職質は相手が犯罪者じゃなくても自由にすることができます。
参考:【法律のツボ】職質は警察官の気の向くままに行われているのか?

「所持品見せろ、見せないのはやましいことがあるからだろう。」
という論法で来ます。

しかし、シークレットリカバリフレーズを書いた紙や金属板の場合やましいことがなくても絶対に見せられませんよね。

「何で見せられないんだ!」
などとあらぬ疑いを持たれてしまい、面倒くさいことになりかねないです。

暗号通貨は窃盗罪の対象外

実は日本の法律では、ビットコインやイーサリアムなど、形のない暗号資産は「財物」には該当しません。
参考:仮想通貨は窃盗罪の対象外!?時代に合った法律づくりのヒントは歴史の中にある!

「財物」というのは、財産的な価値のある物全般のことをいいます。
現行刑法では、財物は有体物であると定義されているため、形の無い物は財物として認められていないのですね。
「財物」とは有体物、つまり空間の一部を占め、有形的存在を持つもの(固体、液体、気体)に限られる、としました。

そのため、あなたのシークレットリカバリーフレーズが盗まれて、
「暗号資産やNFTが全部なくなっちゃいました!😭」
と訴えても、窃盗罪にはなりませんので、警察は捜査すらしてくれないかもしれません。
(もっとも、詐欺罪等ほかの犯罪に該当する可能性はあり捜査をしてくれるかもしれませんが、そもそも匿名性が高いのが暗号資産の特徴なので、殆どの場合犯人は特定できず泣き寝入りになってしまうでしょう。)

まとめ:リアル世界でのリスクも考えよう!

シークレットリカバリーフレーズの保管のリアル世界でのリスクを解説しました。

  1. 現実世界で物理的に盗まれるリスク
  2. 捜査機関に押収されるリスク

「そこまで考えたことが無いよ」と言う人も、今回の記事で少し考え直すキッカケになれば良いなと思います。

あれもこれも危険!これもダメだ!
と言いっぱなしではイカンので、次の記事では具体的な対策法を解説します。
>暗号資産ウォレットの秘密鍵のセキュリティの高い保管方法
ぜひみなさんも、「どうやって保管したらいいだろう?」と考えてみて下さい。

(=゚ω゚)ノジャ、マタ!!

|彡サッ

足立 陽介編集長

投稿者プロフィール

Web3のイベントやセキュリティ記事を中心に執筆してます。
・のぶめい著「Web3.0の教科書」英訳
・IVSサイドイベント「SunnyNFTCafe名古屋#003」にて「トークンエコノミクス」セッション登壇
http://lit.link/Enamichi1

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